平成28年度には、内閣府の「特定有人国境離島地域の地域社会維持施策推進に関する分科会」委員に招聘され、離島の地域づくりに関わるようになりました。
東京で育った私には、子どものころ、大変お世話になった親戚の叔父さんがいました。五島列島の出身。子どもの頃はかんころ餅をよく食べました。88歳になる母親に出身の島を尋ねたところ、「奈留島よ!」と即答したので、有人国境離島委員会の視察では長崎県訪問に手を上げました。委員の方々とともに五島市を訪問、「奈留海上タクシー」と表記された船に乗ったので、船長に「鹿おじさんを知っていますか」と聞いたところ、船長が「私の叔父さんだよ!」と即答。「えっ!」「私たちは遠い親戚なの?」「えっ!」
その後、五島市から奈留島のアドバイザーに任命されました。私の仕事は仕事づくり、地域ビジネスが専門です。奈留町漁協で行った魚の常温パック商品化。奈留島の漁船は海上で獲れた魚を売り渡す。島にはあまり水揚げしない。そこで常温流通できる調理済みパックとして商品化できないか。海上で取引される鮮魚は長崎や佐世保の魚市に運ばれ、五島列島で流通しない。できれば島内流通できないか。そんな商品化試験を続けています。
奈留島の隣の島、久賀島へ
長崎県五島市久賀島で調査を実施することになりました。奈留島も久賀島も五島列島の玄関口の福江島から船で約30分の位置にある2次離島です。しかし、過去60年間の人口減少速度に大きな違いがありました。奈留島2004年に五島市に合併しました。昭和30年に人口8,982人いましたが、60年後の平成27年には人口減少率は75%。60年間で人口8,982人から2,000人に減少しました。一方、久賀島は1957年に当時の福江市に編入されました。昭和30年に久賀島民は3,885人いましたが、60年後の平成27年の人口減少率は92%。60年間で人口3,885人から300人に減少しました。奈留島は巻き網漁業の基地。外貨を稼ぐ産業の有無が存続のカギであったことを如実に表しています。
久賀島は限界集落です。限界集落とは、65歳以上の高齢者が50%を超える集落のことで、その多くが担い手不足で、地域力維持が難しい集落のことです。
限界集落を今後どうするのか。考え方は3つあります。1つ目の考え方は集団移転をすることです。その例として五島市には昭和48年に長崎県五島市奈留島に移転した葛島(かつらしま)があります。過疎化の波に洗われ、全島民23世帯21人が奈留島へ集団移住した葛島は無医地区への不安、子どもの進学、就職などへの社会不安がつのり、離島に踏み切りました。体力があるうちに撤退すべきとまち・ひと・しごと創生会議で委員のひとりも同会議で発言しています。インフラの老朽化時期を迎えるが、日本津々浦々までインフラや町村を維持できるわけではない。コンパクト化を志向すべきだというのが発言の趣旨です。2つ目の考え方は終活を行うことです。消滅寸前の集落は集落が無人になる前に、しきたりや祭事を引き継ぎ、住民が心穏やかな最期を迎えてはどうかとの案です。そして3つ目の考え方は地域再生、地方創生によりしごと創生に取り組む案です。久賀島には高校がありません。このため中学を出ると本島(福江島)にある高校へ通うため寄宿生活が始まります。そして島内に学校を卒業した彼らを受け入れる仕事がなく、多くの生徒がそのまま帰って来ることはなく、島は消滅に向かう。彼らが帰って来ることができる仕事環境を作ることが地方創生に与えられた任務です。これら3つの処方箋を行わないと自然消滅となります。五島市のある島の住民はあとひとり。娘が福江で一緒に住もうといっても、この島がいいとひとりで生活していると聞きました。
ここは日本海や太平洋ではなく東シナ海。台風避難で大型の中国船が100隻を超え入り江に入ってきます。国境離島では集落消滅は簡単にはできないのではないでしょうか。久賀島には自衛隊が駐屯する話がありましたが、住民の4割が賛成、6割が反対で立ち消えとなったと聞きました。
限界集落の諸問題に直面する久賀島は、今後日本がどうやって生きてゆくべきなのかを問うています。消滅に向かうだけでいいのか。どう携わってゆくべきなのか。歴史的、文化的な継承にどう取り組むべきなのか。いずれは人口減少社会で全国各地でも直面する問題をいち早く考えることができるのが久賀島です。
久賀島のこれからのまちづくりをどうすべきか、ご意見をください
我々は6人で久賀島に入ることにしました。弱冠20歳のカメラマンを目指す三島健太郎君、大手新聞社の編集委員の鈴木賀津彦さん、ライターの尾崎えり子さんとお母さんの美恵さん、久賀島生まれのガイドの平山和子さんと私、斉藤俊幸の6名です。いろいろと話し合いました。そしてそれぞれがそれぞれの考えをまとめまずはこのサイトで配信しています。
島民の方、島出身の方、観光客の方、ぜひ旅の書置き帖のようにこのサイトに投稿してください。久賀島の生き方を率直にお伝えすることが、とても大切だと考えています。久賀島ライフのサイトでお待ちします。
writer : 「久賀島Life」編集長 斉藤俊幸