久賀島で牛飼いになる。

長崎県の畜産業は、農業産出額の約3割を占める重要な産業です。五島列島には畜産が向いている島と向いていない島があります。これは農地ができる地形とか牧草が育てられる地質かどうかによって適否が決まります。奈留島は星形の地形で漁業基地を作るのに向いていますが広い農地が確保できず畜産に向いていませんが、久賀島は離島にしては広大な農地があり、人口も少なく、牧草が生える土質もあり、なるほど畜産適地です。畜産業が久賀島の基幹産業になりうるのではないかと考えています。つまり畜産業で就農したい人には魅力的な島ですね。久賀島で畜産業を始めるには地域の方々の理解がまず重要で、事業を始めるための土地や就業機会があるかどうかはわかりませんが、久賀島で畜産業を始めるためにどんな条件があるのでしょうか。新規就農で個人が牛飼いになるための方法と畜産業への企業参入の方法を調べてみました。

畜産は新規就農の有望分野

日本の肉用牛農家は、高齢化し離農が進んでいます。肉用牛の飼養頭数も毎年減少するなど生産基盤が弱体化しています。しかし、飼養頭数が減る半面、供給減から家畜市場の取引価格が増加傾向を示しています。コロナ禍により、和牛枝肉相場の大幅な下落やそれにともなう和牛子牛の価格が急落し繁殖経営は厳しさを増しますが、中山間地域の基幹的な農業部門であることは間違いなく、新規就農の有望分野ではないでしょうか。農業以外から畜産業への就農をするため農場研修生となり、新規就農している方も増えています。

肉用牛の品種

肉用牛の品種には、日本固有の「黒毛和種」「褐毛和種」「日本短角種」「無角和種」があります。つまり和牛です。この他に、牛乳を作るための品種は「乳用種」と言います。「ホルスタイン」が有名です。牛乳を作るための品種の雄牛を肉用に育てる農家もあります。また、「黒毛和種」の父親と「乳用種」の母親から生まれた「交雑種」と呼ばれる品種も育てられています。

乳用種(農業高校)

牛肉を作るためには30か月かかる

畜産農家は母牛に子どもを産ませ、約30ヵ月間育て、30ヵ月後に出荷します。畜産農家は母牛に子どもを産ませ、子牛を10か月間育てる繁殖農家と繁殖農家が育てた子牛を購入し、太らせて肉を販売する肥育農家に分かれます。この作業を一貫して行う肉用牛一貫農家もあります。繁殖農家で母牛は種付けをして、10か月間の妊娠を経て分娩・出産をします。その後、産後に45日間の休憩をします。つまり1年に1頭を生み12年間続けます。生まれた子牛は8~9か月の哺育育成を経て、肥育農家に販売されます。肥育は20か月間で、その後、出荷されます。

牛飼いを始めるのは40代以下が目安

畜産農家は牛舎で見回り、清掃、給餌、餌作り、牛床清掃、ふん尿処理等の作業があります。家では帳簿整理などのしごともあります。毎日この作業を繰り返します。就農する年齢は、畜産農家が大きな施設や牛の購入が必要なため、投資資金を無理なく回収する期間を確保できる若い人が望ましいです。40代以下が目安と言われています。定年就農できないのでしょうか。年寄りにもチャンスを与えてほしいのですが。

給餌作業(農業高校)

清掃作業(農業高校)

牛はいくらで売れるのか

牛はいくらで売れるのか。子牛はいくらで購入できるのでしょうか。独立行政法人農畜産業振興機構の「令和元年度 大規模肉用牛経営動向に関する調査報告書」の出荷状況(黒毛和種)を見ると、市場出荷の1頭当たりの平均販売額は1,188,113円。もと畜の年間の導入状況(子牛の購入額)は黒毛和種で1頭当たりの平均取得価格733,057円です。単純計算すると繁殖農家は子牛を1頭約70万円で家畜市場に販売し、肥育農家は子牛を1頭約70万円で購入し、約120万円で販売できることになります。肥育農家は子牛購入費も含め経費総額で120万円は必要で全然利益出ません。しかし、国からの交付金を受け事業が成立しています。肉用牛肥育経営安定交付金制度(牛マルキン)といいます。牛マルキンは肉用牛肥育経営の標準的販売価格(粗収益)が生産費を下回った場合、差額の9割を補填する制度です。国と生産者が3対1の割合で積み立てた基金が財源です。現在コロナ禍の影響でインバウンド需要が減少し、牛肉消費が低迷。枝肉価格が下落して、多くの地域で牛マルキンが発動される見込みです。(生産費の中には労働費が含まれます。黒毛和種で1頭あたり53,216円/令和元年度大規模肉用牛経営動向に関する調査報告書より)

牛飼いになるには

牛飼いになるためには、大きく2つの方法があります。一つは、農業生産法人(農家)や肉用牛ヘルパー利用組合の従業員になること。もう一つは自営業として起業し、自らが経営主となることです。これは自営就農と言われています。自営就農とは、肉用牛を生産するために牛を買い、施設・設備を整備し、餌となる牧草を栽培する農地を確保することを自営する農業です。肥育された牛を販売し生計を立てます。投資が必要なのは会社の創業と同じです。

牧草の栽培は年2回(久賀島)

1頭当たり農家所得は193千円

農業経営統計調査によると平成26年度の繁殖雌牛1頭当たり所得は193千円(20~50頭規模)でした。1年の所得を600万円と想定すると約30頭は必要となります。新規就農者は、施設整備のために融資を活用するとその返済があり、600万円から返済することになります。農業以外からの新規参入は、親の経営基盤がある農業後継者と異なり、就農に必要なほとんどの要件(土地、家畜、建物、施設・機械等)を持っていないため、自分が営農に必要な要件を備えていかなければなりません。これらの要件を、経営開始までに備えていかないと事業が始まりません。このため補助金や融資を組合わせて事業を開始することになります。

近代的な牛舎(久賀島)

畜産経営の事業承継

新規参入者が、肉用牛の経営資本をすべて新規に整備するには、繁殖経営、肥育経営共に多額な費用が必要で、大きなハードルとなっています。このため、後継者のいない離農(予定)農家の経営資産を活用し、就農を希望する第三者に対し継承して、新規参入を促進させようとする取り組みも始められています。移譲者(農家)と継承者(新規参入者)の間で経営継承を、農業協同組合等が中心となり、地域の関係機関(専門家)が支援する体制を整備して、バックアップしていこうとする取り組みも行われています。

北海道のJAを中心に地域主導による第三者経営継承の取り組みを推進しています。離農者の土地や建物、機械、さらには住居も新規就農者に継承させています。農業公社の公社営農場リース事業は、離農農家の施設などを整備する資金を無担保で貸し付けてくれる上、返済は牧場経営が軌道に乗った6年目からです。長崎県にも同じような制度があります。整備・導入費用の1/2の補助があり、残りの1/2をリースにして事業化する制度があります。

経営資産の取得方式

表1 経営資産の取得方式

方式 資産購入方法 技術習得 買取時期 備考
①経営継承方式 相対売買 移譲者(農家) 継承時 周囲のバックアップが必要
②公社営リース方式 出し手から一括買上した公社からリース 地域内先進的農家 経営開始5年後 北海道が中心の手法
③直接売買方式 相対売買 (技術あり) 購入時 地域への順応期間が必要
④農家リース方式 相対賃借 賃貸者(農家) なし 農家と並走が可能

資料:牛飼いになりませんか?(公益社団法人中央畜産会)

資金調達

就農を支援する資金制度はたくさんあります。就農時に借受けることができる資金制度を紹介します。日本政策金融公庫資金には青年等就農資金と経営体育成強化資金があります。民間金融機関等資金には農業近代化資金があります。

  • 青年等就農資金

農業経営を開始するための資金の融資。無利子であり償還期間12年(うち据置5年)以内である。認定新規就農者が対象。上限3,700万円。融資対象物件以外の担保及び第三者保証人は不要である。貸付主体は、(株)日本政策金融公庫

  • 経営等就農資金

新規就農者の必要とする農地等を取得するための資金に融資。償還期間25年(うち据置3年)以内(農地等の取得の場合は据置5年)。貸付利率0.8%(平成27年6月18日現在)

認定新規就農者を対象。事業費の8 0 %以内を融資。

  • 農業近代化資金

新規就農者の必要とする初期投資資金に融資。償還期間17年(うち据置5年)以内。貸付利率0.8%(平成27年6月18日現在)。認定新規就農者を対象。上限1,800万円(ただし、融資率は80%以内)。

五島市久賀島で繁殖農家を営む畑田幸彦さん(34歳)は15歳で親元就農し、18歳の時に、補助金を受け、同時に融資を受けて近代的な牛舎を建設した。15年で借金を完済し、2棟目の牛舎を建設した。畑田さんを追う畜産志望の若者が増えている。

企業による畜産参入という方法もある

「農地所有適格法人」を知っていますか。以前は「農業生産法人」と呼ばれていました。平成28年4月の農地法改正により、この呼称に変更されました。6次産業化等を図り経営を発展させやすくする観点から株式会社の参入が大きく見直されました。農業関係者以外の構成員(株式会社)が保有できる議決権は、総議決権の1/2未満です。6次化や農村滞在型余暇活動に利用される施設の設置・運営等(例えば、農家民宿)も認められています。これら事業に対する1/2助成の交付金事業もあり、無保証の低利融資もあります。農地所有適格法人は農地法で規定された呼び名であって、株式会社や農事組合法人やといった法人の形態を指し示すものではありません。「農地の権利を取得するための要件を満たしている」法人を言います。株式会社にあっては、非公開会社であること。貸借(リース)であれば、株式会社やNPOであっても全国どこでも参入可能です。リース期間も最長50年に延長されました。これに有人国境離島交付金を組合わせることができます。担い手が十分にいない久賀島のような離島地域では、参入企業は地域の農業の担い手となり得る存在であり、農業参入が期待されます。

表2 営農類型別の農地所有適格法人数

種別 米麦作 そ菜 畜産 果樹 その他
法人数

(割合)

8,314法人

(43%)

3,635法人

(19%)

3,264法人

(17%)

1,312法人

(7%)

2,688法人

(14%)

参考資料:牛飼いになりませんか?(公益社団法人中央畜産会)

writer : 「久賀島Life」編集長 斉藤俊幸