有人国境離島法・解説

台風避難する中国の大型漁船団(平成23年当時、玉之浦地区)

日本は人口減少社会となり、様々な地域で縮小が始まっています。国の地域づくりはこれに反応。いわゆるコンパクト化を進めようとしています。市町村合併、学校統廃合、中心市街地で行われているコンパクトシティ。縁辺部の学校や集落は存続危機にあります。農水省は昨年1万を超える集落が消滅危機とのデータを公表しました。今後山村集落や離島集落を放置すればおのずと消滅集落が増えコンパクト化が進みます。

でも残さなければならないものはたくさんあります。国境有人離島と言われる離島集落はそのひとつです。長崎県五島市を囲む海は東シナ海であり日本海でも太平洋でもありません。台風襲来で五島列島の入り江に避難する中国漁船(写真は平成23年当時のもの。近年は中国漁船の避難はないとのこと)はこんなにも大きく、そしてこんなにも多く周辺海域で操業しているのでしょうか。久賀島のような離島集落は、まさに国境に面した集落であり、このまま消滅を放置できないのではないでしょうか。そんな安全保障上の目的も視野に入れ、有人国境離島法が動き出したのでした。

筆者は有人国境離島の法律制定後に内閣官房総合海洋政策本部で開催された委員会で委員をさせていただき、その推移を見つめてきましたので、僭越ながら有人国境離島法の説明をさせていただきます。

乗組員が上陸しないよう監視する警察の警備艇(平成23年当時、玉之浦地区)

有人国境離島法

平成28年4月に五島市出身の谷川弥一衆議院議員を中心とした議員立法によって「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法」(平成28年法律第33号)(有人国境離島法)が成立しました。これにより、島民の往来や物流の運賃が新幹線並みの運賃を目途に国から助成が行われました。また有人国境離島の中で起業する個人、新規事業を始める会社にも助成が行われることになりました。国境付近にある離島の人口減少が顕著になってきており、安全保障上の課題として国の交付金による支援が始められたのです。

画期的な個人財産に助成

この法律の最大の特徴は個人の財産に助成する日本で初めての法律であることです。地方創生事業は地方自治体を対象とした事業ですが、この事業制度とは意識して住み分け、民間を対象とし、制定されました。もちろん地方創生事業でも公設民営を認めていますが、空き家のような個人の財産にも助成することを認めているのは画期的です。また、今まで国の助成では個人に助成するのは平等性が担保できないと多くの事業で組合や任意グループ等のいわゆる連携組織を対象としてきました。また、個人への助成は失業などのセーフティネット(救済策)に限られていました。しかし同法では国境離島に関わるすべての人が対象となりました。

議員立法を主導した谷川弥一衆議院議員(衆議院会館)

左から奥田麻衣子委員(島根県海士町、現一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム)、阿比留勝利委員(城西国際大学教授、対馬市出身)

特定有人国境離島地域の地域社会の維持の施策推進に関する分科会(内閣官房総合海洋政策本部)

https://www8.cao.go.jp/ocean/kokkyouritou/yuushiki/bunkakai/bunkakai.html

五島市は人口の社会増を達成

その結果、どうなったかと言えば、大きな成果が出てきたと言えます。五島市は2020年1月7日に2019年に市内へ転入した人数が転出者数を33人上回り、「社会増」を達成したと発表しました。人口動態に影響を与えるのは自然動態と社会動態の2つであり、それぞれ自然増加(子供が島内で誕生する)、自然減(住民が島内で死ぬ)と社会増(島外から移住)、社会減(住民が島外へ流出)があります。社会増を達成したというのは五島市への移住者が増えたのと高校生が卒業後に大都市への就職、進学のための島外流出を抑制できたことが大きな要因と考えられます。五島市は小中高校を通したふるさと教育を積極的に行ってきたことや移住者誘致も積極的に行ってきたことが功を奏したと言えます。そしてこの裏には有人国境離島法があると言われています。同法制定後、五島市の有効求人倍率が0.25から1.68まで急上昇しました。同法の助成には雇用を義務付け、3/4という高い助成率を、民間事業(個人財産)を対象として行った結果です。

国境離島雇用機会拡充事業補助金は、補助対象経費は機械導入、人件費、広告費です。対象外経費は建物・資産の増大に繋がるものです。補助額についても、新規になるもので450万円(事業費600万円以上)になり、5年までの継続可能です。建物改修についての補助はありません。詳しくは五島市にお尋ねください。また農水省、総務省事業等の助成金と組み合わせ事業の骨子を作り、有人国境離島補助金を5年間継続し、設備機械等の補強を行うのも手です。低利、無保証の銀行融資もうまく使うと大きな事業展開ができます。

表1-1 補助金

区 分 補助対象経費の上限 補助金の上限
創業 600万円 450万円
事業拡大 1,600万円 1,200万円
設備投資を伴わない事業拡大 1,200万円 900万円

奈留島では女性起業が続いている。

奈留島では女性起業が続いています。奈留島出身の夫がいる北川栄惠さんはカフェを開店させ東京と奈留島の2地域居住を実現しました。またウービィー社の増田社長はペットの遺骨を真珠化した商品の開発をしました。あともう一人の女性の方も同法による申請準備をしています。

奈留島の起業事例を紹介しましょう。

北川さんは有人国境離島法の創業を活用しました。彼女は薬剤師の資格を持ちハーブインストラクターであり、この特技を活用し、ハーブティのカフェを起業しました。東京と奈留島の2地域居住が実現できています。

ペットの遺骨を真珠にする「真珠葬」は会社社長の増田智江さんは事業拡大を活用しました。東京では子供の数より、ペットの数が多いのですが、田舎と違いペットは土葬できません。火葬し骨壺で保管する方が多いのです。そして飼い主のペットロスが新たなビジネスチャンスを生んでいます。有人国境離島交付金1600万円(3/4助成)を使いペットの遺骨を真珠化する新規事業を東京の会社が始めました。まったく新しい、女性らしい発想の真珠ビジネスです。

奈留島と東京の二地域居住でカフェを起業したハーブインストラクターの北川栄惠さん

ウービィー株式会社代表取締役増田智江さん(中央)

虹の守珠「真珠葬」はドイツからも取材が来た注目のニュービジネス https://shinjusou.jp/

久賀島でも起業家が現れてほしいです。

久賀島でも起業家が現れてほしいです。ご連絡いただければ、ご相談に対応します。ビジネス環境を調査するために久賀島に来られる場合も現地をご案内します。以下のサイトからメッセージを送ってください。

https://hisakajima.life/contact

左から奥田委員、阿比留委員、谷川議員、筆者、小島愛之助委員(離島センター専務理事)

writer : 「久賀島Life」編集長 斉藤俊幸