久賀島へ
久賀島に来たのは3年半前。それまでは看護師の資格を生かして開発途上国で仕事をし、その後、夫の赴任に同伴、12年以上を海外で生活した。大使館の医務官をしていた夫は、定年退職後は地域医療に貢献したいと考えていた。帰国して直ぐに訪れた久賀島の人の温かさと自然の美しさに一目ぼれし、海外からの荷物が届く前に、久賀島での再就職が決まった。
久賀島での生活は毎日が新鮮で楽しい。玄関に野菜のおすそ分けがあったり、釣ったばかりの魚をいただいたり。愛犬との散歩に山道を歩くのも毎日、何かしらの新しい発見がある。
久賀島に来てから、自分自身も地域の為にできることをしようと、様々なことに挑戦した。
ジャムやカレンダーなど島のお土産品を作って販売したり、夫のコレクションであるアフリカのアンティーク彫刻を集めた「アフリカミュージアムin久賀島」をオープンさせた。
久賀島あおぞらマーケット
近所に高齢のおばあちゃんが切り盛りする小さな商店があった。島唯一の商店は島の人たちの憩いの場でもあり、「ここが最後の商店だから」とおばあちゃんは頑張っていたが体調の悪化のため閉店となった。移動手段のない高齢者には隣の島まで買い物に行くことは至難の業。このままでは買い物難民や島で生活ができなくなる人が出てしまうと危惧した。自分がやるしかないと思い、移動販売車を購入。2019年2月に「久賀島あおぞらマーケット」をオープンさせた。人口が300人しかいない島ではビジネスにはならず、無給のボランティアだが、毎日、多くの高齢者や仕事帰りの人たちが買い物に来てくれる。品数も増え、自宅倉庫にも商品がならんだ。島の人たちの役に立っているという手ごたえとやりがいを感じている。買い物に来る人達とのおしゃべりも楽しく、天気が良い日には、お店の前でおばあちゃんたちが缶コーヒーを飲みながら話に花を咲かせる。温かい、ゆっくりとした時間が流れる。
高齢者の見守り活動
現在マーケットを運営しながら、放送大学の大学院で勉強を行っている。取り組んでいるテーマは「高齢者の見守り活動」。久賀島は年々人口が減少し高齢過疎化が深刻な地域であるが、都会にはないこの島ならではの素晴らしさがある。若手島民の多くが高齢者を見守るという意識を持っており、ほとんどの島民が顔見知りであるということは「見守り活動」を行う上での最大のメリットだ。全ての高齢者が生まれ育った島、慣れ親しんだ地域に少しでも長くいたいと思っている。微力ではあるが、少しでもそれを可能にできるよう、食のサポートと見守りで高齢者に優しい島を目指して活動に取り組んでいる。
「世界遺産の島」「碧海に囲まれた島」きらびやかなイメージの久賀島とはまた違った日常の久賀島。教会巡りだけでなく、多くの人に町の中で足を止めて、島の人たちの生活を感じたり、島のおじいちゃんやおばあちゃんと話をして欲しいと思う。きっと観光地とはまた違った久賀島の魅力や新しい発見に出会うことができると思う。
writer:久賀島あおぞらマーケット代表 黒須久美子