24歳の若者が示した事業承継モデル(新潟県佐渡島)

天領盃酒造加登仙一社長(天領盃酒造)

24歳個人が日本酒造を買収

24歳にして新潟県佐渡市の酒造会社を個人が買収し経営者となった最年少蔵元が佐渡島にいる。昭和の時代に佐渡市には3蔵が合併して作った酒造会社があったが、昭和の吟醸酒ブームの時代に5000石(年間900KL:1石=180L)が生産できる設備投資をして10億円の負債を抱えて倒産した。その後、平成20年に著名な焼酎会社と日本酒造会社が共同代表となり、経営権を引き継ぎ、天領盃酒造と社名を変更して会社の立て直しを図った。しかし、遠くにいる社長は佐渡市に来ることは1年に1回程度。このためトップ不在で現状維持の状態が続いていた。平成28年にこの会社が売りに出るという話を聞き、加登さんがM&Aで会社を買収した。会社が会社を買収することはよく聞くが25歳と若い個人が会社を買収することは至って稀な事例だ。天領盃酒造は大量に安いお酒を造っていた。このため大量生産の醸造設備が稼働している。今の時代は付加価値のある酒を少量造ることが求められている。佐渡は有人国境離島法(3/4助成)が活用できる。ほぼ毎年この事業を活用し多品種少量生産に適した設備投資を続け会社の体質改善を進めている。

大量生産ができる酒造会社を買収した加登社長(新潟県佐渡市)

日本酒業界に関わりたいと夢を持った学生時代

加登社長は、成田国際空港がある成田市近郊で育ちいつか海外に行ってみたいと考えていた。大学2年の時に、単位互換制度を活用しスイスの大学に1年間留学した。留学生の仲間が集まり飲み会が始まった。歴史、経済、政治、文化を語ったが、自分に振られる時に語れるものがなかった。日本の文化を表面的に学んだだけで答えられなかった自分がショックだった。特に留学生たちが熱をもって語っていたのがお酒のことだ。メキシコのテキーラが一番だ。フランスのワインが世界一だと喧嘩寸前で語っていた。そこで日本酒があるではないか、日本酒の発酵技術あるではないか、世界に誇れる日本酒があるではないかと思い、いつかは日本酒に関わりたいと考えていた。

証券会社に就職

就職を目前に控え、財務の勉強がしたいと考え、ビジネスに関われる証券会社を選んだ。酒造会社が売りに出ていると聞いたのは証券会社のお客さん経由だ。このお客さんにはこの証券会社に一生勤める気はありませんと話し、会社経営や財務のことを教えていただいた。将来は酒蔵を経営したいと話したが国は日本酒の製造免許の許可を出さない。どんな道があるかと尋ねたところM&Aがあるぞ、そんなことに気がつかないのかと言われた。日本酒造のM&A情報をネットで見たら15社出ていた。天領盃酒造も出ていた。会社買収を決意した時にどうやったらお金を集められるのかは自分で考えろと言われた。

君に任せてみようと思う。次につなげてほしいと前オーナー。

日本政策金融公庫と北越銀行に対して自分で共同融資案を作った。第2次創業、地方創生(雇用拡大)、Iターンしますという事業計画であり共同融資を持ち掛けたが半年間は跳ね返された。経常利益をあげよ。営業利益をあげよ。キャッシュフローを再検討しろ。自己資本比率を高めよと協議は続いた。平成28年9月に事業計画案を作り、平成29年3月に融資が決定した。資本金は960万円。従業員12名(正社員9名)、年商2億円近い会社を手に入れた。10年は生活できるだけでいいと考えている。原料となる酒米を佐渡市内でつくるため米作りを一から勉強し始めている。

新ブランドの雅楽代(うたしろ)

有人国境離島法交付金をほぼ毎年活用

天領盃酒造は大量に安いお酒を造っていた。今は付加価値のあるお酒を少量造っている。佐渡は有人国境離島法交付金(3/4助成)が活用でき、ほぼ毎年この事業を活用し小規模醸造に適した設備投資を続けている。(最大450万円助成。5年まで継続可能)雅楽代(うたしろ)というブランドを作った。空間を演出できるようなお酒。食が主役。お酒は脇役。酒の香りが前に出すぎないお酒を目指している。今新しく作っているブランドは心に佐渡を思って世界の飛び出せるよう子どもの教育に一部寄付する予定。キャッシュフローが赤字の会社であったが、3年続いて黒字だ。

就職よりやりたいことを選ぶ世代が誕生している。

新たな世代が台頭している。それは安定した就職よりやりたいことをやる世代だ。事業家になりたい。いつかは自分で何かをやりたい。そして、いつかは自分で何かを始めるために主体的に考える教育も始まっている。また、全国の情報も手に入りやすくなっている。美しい島だからと移住を決意する人は少なく、そこで何が実現できるかを求める世代が誕生している。金融もこうしたニーズに反応して若い起業家の夢を実現する体制が整いつつある。また、五島列島のような有人国境離島は大きな助成制度がある。毎年助成を受け、成長する環境にある。小さく生んで大きく育てる。そんな道筋を加登社長が見せている。若者よ。離島に来て何ができるか考えてみないか。

出典:天領盃酒造ホームページ

 

writer : 「久賀島Life」編集長 斉藤俊幸